発酵を成功に導く
Setting your fermentation up for success
酵母を知る : 発酵度
——発酵を成功に導く——
醸造用酵母は家畜化された獣である。研究者の推定によると、私たちは1500年代から、特定の結果をもたらす酵母を選択的に選び、育種してきたという。
現在も同様である:大雑把に言えば、私たちは特定のタイプのビールを造るために、特定の酵母を選んでいる。酵母がビールに与える特性はいくつもあるが、今日は発酵度に焦点を当ててみよう。
発酵度とは何か?
発酵度とは、発酵中に酵母によって消費された糖分の量を示す尺度である。 開始重力と最終重力の差を割り出すという、簡単な計算で測定できる。エタノールの含有量や、ビールの最終的な濃度に影響を与える可能性のある他の化合物を考慮しないため、この方法で計算すると、見かけの発酵度とみなされる。
“実際の”と”見かけの”発酵度
見かけの発酵度(Apparent degree of fermentation / ADF)と実発酵度(real degree of fermentation / RDF)は、発酵度を表す2つの用語である。ADFは見かけの発酵度と同じ意味である。RDFはエタノール添加による密度変化を加味するが、”見かけのエキス”(AE)は密度測定のみであり、それを加味しない。”実エキス”(RE)は、実際のエキス残存量を計算するために、エタノールの絶対量を知る必要がある。
この良い例は RE=0 つまり糖分が100%消費される場合であり、この時AEは負の値となる。炭酸飲料やワインの発酵が0以下で終了するのはこのためである——エタノールの密度が水より小さいため、比重計の測定値が0以下になる。ビールは通常、diastatic酵母が存在するか、醸造者が残りのデキストリンを分解するために外因性酵素を添加した場合のみ、AEが0未満になる。
醸造用酵母に記載されている様々な発酵度の範囲は相対的なものであり、絶対的なものではない。酵母株は本来、特定の炭水化物源を代謝する能力に差がある。醸造用酵母はマルトース(maltose)を代謝する能力を持つように家畜化され選抜されているが、マルトトリオース(maltotriose)やデキストリン(dextrins)を代謝する程度は大きく異なる。
極端な例を挙げると、British Ale V (OYL-011)は、ビールに使用した場合の”公式”な発酵度範囲は71-75%と記載されているにもかかわらず、レシピが100%ブドウ糖で構成されている場合(例:炭酸水)、100%の見かけの発酵度が可能である。発酵の範囲は菌株によって異なり、特に菌株を比較する場合には、一般的に予想される範囲を知ることができる。しかし、これらの範囲は様々な要因によって影響を受ける(範囲外に押し上げられることさえある)。
発酵度に影響を与える要因
発酵度の範囲は酵母株によって異なるとはいえ、予想よりも減衰が大きくなったり小さくなったりする要因はある:
HOT SIDE / ホットサイド
Mash temperature : 麦汁の全体的な発酵性と麦汁全体の組成に影響を与える主な方法のひとつである(詳しくは次で述べる)。α-アミラーゼとβ-アミラーゼの活性が一致する”スイートスポット”を考えてみよう(約63-70℃)。ごく一般的に言えば、この範囲内でマッシュ温度が低ければ低いほど、麦汁は発酵しやすくなる。この範囲の高い方に近い温度でマッシングすると、酵素が変性し、発酵しにくい麦汁になる。
Mash pH : 酵素に理想的な温度範囲があるように、酵素にも最適な活性を示すpH範囲がある。麦芽に含まれるβ-アミラーゼは5.1-5.3、α-アミラーゼは5.3-5.7のpH範囲を好む。ドライな仕上がり重力を求めるなら、β-アミラーゼのpH範囲は5.1-5.3を目標とする。逆に仕上がり比重を高くしたい場合は、α-アミラーゼのpH範囲を5.5-5.7とする。中間を望むのであれば、5.3-5.5が良い妥協点である。
Water-to-grist ratio : 薄すぎるマッシュも濃すぎるマッシュもコンバージョンの低下につながるので、中間のスイートスポットを目指す必要がある。薄いマッシュでは、酵素と基質の相互作用が制限され酵素活性が低くなる。濃いマッシュでは、酵素と基質は高濃度で非常に活性が高いが、ある時点で糖の高蓄積が収穫逓減に達し、酵素活性の低下にもつながる。
Wort composition : 発酵性の度合い(麦汁に含まれる利用可能な糖分)は減衰の可能性に影響する。発酵可能な麦汁が75%しかない場合、発酵中に他の問題が起きなければ、発酵度は最大でも75%になる。醸造家はケトル内でブドウ糖や乳糖などを添加して麦汁の組成を変えることもできるが、これは全体的な発酵性に影響する。
COLD SIDE / コールドサイド
Pitch rate & yeast health : このどちらかに問題があると、発酵が”停滞”してしまう。オーバーピッチングが発酵度の問題につながることもあるが、アンダーピッチングの可能性の方が高い。——そのため、仕事をこなすのに十分な健康な酵母細胞が必要である。さらに、不健康か(または同時に)ストレスを受けた酵母は効率が悪く、低い発酵度になる可能性がある。新鮮な酵母が常にベストである——疑わしい場合はスターターを作る。
Oxygenation : 特定の菌株は他の菌株よりも酸素要求量が高く、酸素不足と発酵不足には直接的な相関関係が見られる傾向がある。酸素は主に酵母の増殖に使用されるため、酸素レベルが低いと増殖が低下するだけでなく、存在する細胞のパフォーマンスも阻害される。酸素添加を含む実験についてもっと読む(未翻訳)。
Nutrient : 栄養レベルが低いと酵母にストレスを与えるので、健全な発酵を確保するために酵母栄養剤を添加することもできる。炭酸飲料の発酵を例にとってみよう:100%発酵可能な糖の中、健康で幸せな酵母であっても、適切な栄養素がなければ、そのパフォーマンスは大幅に低下する。
Alcohol tolerance : 高アルコール環境は醸造用酵母にとってストレスとなる。酵母が耐えられるアルコール量の限界に近づくと、麦汁に未発酵の糖分が残っていても発酵は遅くなる。
Dry hop creep : コールドサイドでホップを加えると、発酵のための糖分をより遊離させる酵素を導入する可能性がある。酵母が糖分を消費し、ビールをさらに発酵させるため、ビールは本来想定していた最終比重より下がる。ホップクリープについての詳細はこちら(未翻訳)。
Temperature : 発酵温度は通常、他の要素ほど発酵度に影響しない。しかし、発酵温度が低すぎると、酵母の凝集が早まり、未発酵の麦汁が残り、発酵度が低くなることがある。
Setting up the “dinner plate”
酵母株に合わせて発酵性糖類を最大にすることで酵母を成功へ導く。
酵母株の発酵度は、糖の取り込み具合によって決まる、ほとんどの醸造用酵母株は、特定の予測可能な方法で糖を消費する——最も小さく単純な糖(グルコース(glucose)、フルクトース(fructose)、マルトース(maltose))から始まり、次に大きく複雑な糖(マルトトリオース(maltotoriose)、デキストリン(dextrins)など)へと移行する。この知識があれば、どの酵母株を使うかによって、発酵可能性を最大にするようにレシピを設計することができる。例えば、多くのイギリス系酵母はマルトトリオースを取り込まない。一方で、West Coast Ale Iのように、マルトトリオースの発酵をうまく処理するものもある。
Quick reference : コールドサイドでの発酵に関する原因
Under attenuation
- Underpitched yeast / 酵母のアンダーピッチ
- Fermented too cool for strain limits / 温度が低すぎる
- Under-oxygenated wort / 酸素が足りてない
- Unhealthy and/or stressed yeast / 酵母が不健康かストレスを受けている
Over attenuation
- Hop creep
- STA1+ present
ビールが出来上がり、0.5°P未満の誤差がある場合はどうだろう?時々ある。最終的には、心配するほど大きな差ではないが、定期的に起こるようなら、工程を調整する時期かもしれない。
発酵度を管理・制御するためのアドバイス
レシピを設計し、ビールを醸造し、発酵を管理する際には、これらの要素をすべて念頭に置いておくことが重要だ。また、温度計やpH計測器が校正されているかをチェックし、醸造日ごとの一貫性を確保する。イーストの発酵度は大体予想がつくが、結局は自分のシステムで何が効果的かを見極めることであり、それには数回の醸造が必要なこともある。何度か醸造を繰り返して、自分に最適なものを見つけよう。
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