※は翻訳者による追記
多くのブルワーにとって、酵母の発酵度は謎めいたブラックボックスである。酵母メーカーは製品スペックに幅を持たせている。さらに紛らわしいことに、発酵中の酵母がその範囲を上回ったり下回ったりすることもある。これは当然イライラさせることであり、ここEscarpment Labsでは多くのトラブルシューティングの会話につながる!
ここではイーストによる減衰を解明し、ビールの減衰を調整する方法を理解する手助けをする。これは、ブルーハウスや貯蔵室において非典型的な結果をもたらす可能性のある2021年北米産大麦を使用する場合に特に重要である。
我々はブルワーが目標を達成するために必要なデータと知識を提供したい。モルトもブルーハウスも皆違うので、発酵度を完璧に達成するのは本当に難しい。酵母は多くの変数の中の1つに過ぎない!
※発酵度の計算方法についてはこちら“【レシピ構築】狙ったアルコール度数のビールを造るには part1”
ビールの発酵度における重要な要素
マッシングは発酵度をコントロールする主要な方法であり、マッシングによって酵母が発酵できる糖類の種類が決まる。
モルトも重要だ。麦芽によっては発酵しにくいメラノイジンを多く含むものもある。それ以上に麦芽は農産物である。製麦業者はそれを一定に保つために素晴らしい仕事をしているが、麦芽は年や場所によって異なることがある。
酵母の遺伝も重要だ。酵母の中には麦芽糖を少ししか発酵させず、それらは助けを借りなければ決して高い発酵度にはならない。簡単に言えば、一部の酵母は一部の麦芽糖類を発酵させるのに必要な構造を持っていない。一方、酵母の中には発酵性糖類やデキストリンをほとんどすべて発酵させるものもある。
酵母の健康と発酵の一貫性は最後の重要な要素である。特に麦汁中の最後の糖類であるマルトトリオースを消費しようとする場合、健康でない酵母は失速(不完全発酵)する危険性がある。麦汁の酸素供給不足は発酵が停滞する一般的な原因である。低温は酵母を早期に凝集させるため、温度変化も発酵度に影響を与える。
マッシングは発酵度の主な要因である
一般的に麦汁の糖組成は、単糖類(グルコースとフルクトース)約10-15%、~5%:スクロース、40-60%:マルトース、15-25%:マルトトリオース、20-25%:スターチとデキストリン(高級糖類)である。
マッシングとベースモルトの選択は、麦汁中のイーストが利用できる糖の種類に影響する。
麦芽自体にも影響がある。麦芽の糖化力(酵素の量)などは麦汁の発酵性に影響する。これは年によっても異なるため、発酵度の変化に関するトラブルシューティングを行う際には、常に麦芽を考慮する必要がある。
マッシングも重要な役割を果たす。マッシングのレスト温度はα-アミラーゼかβ-アミラーゼのどちらかを好むが、麦汁の発酵性には両者で異なる結果をもたらす。例えば、β-アミラーゼ(マッシング温度が低いほど有利)は炭水化物鎖をマルトースに切り刻む能力があるが、酵素活性にα-アミラーゼより時間がかかる。α-アミラーゼはより速く作用し、より多くの場所で炭水化物鎖を切断することができる。その結果、β-アミラーゼを好む(温度が低い)長いマッシングはマルトース含量が高くなり、より発酵しやすくなる。多くのブルワーは2つの酵素の活性の中間、145-152ºF(63ºC-70ºC)を目指している。
麦汁の発酵性は、時間と温度の両方の結果であることを認識することが重要である!温度はどの酵素が活性化するかを決定し、マッシングの時間は酵素が働く機会を多かれ少なかれ与える。発酵性の高い麦汁を造りたいのであれば、ステップマッシングであっても、低温域(63-65℃で最低60分)で長めのマッシング・レストを行うことをお勧めする。逆に発酵性の低い麦汁を作りたい場合は、より高温でより短時間(72-74℃で30分間)マッシングすることをお勧めする。その方が、麦汁に非発酵性のデンプンやデキストリンの割合が多く残る。
※マッシングに関する論文の要約はこちら“Optimization of Beer Brewing by Monitoring α-Amylase and β-Amylase Activities during Mashing” by Raimon Parés Viader etc…
マッシングは酵母がアクセスできる糖の種類に影響するので、酵母の発酵度に直接影響する。酵母と発酵性糖類に関して、酵母株や酵母家系の違いは注目に値する。
ビール酵母の中にはマルトトリオースの発酵に苦戦するものがある。例えば、一部のKveik酵母はマルトトリオースの分解と発酵が苦手で、標準麦汁ではKveikの発酵が不十分となることがある。Kveikの場合、この制限を克服するためにマルトースに富んだ麦汁を作ることが有効である。その他の戦略としては、マルトトリオースの発酵に優れたKRISPY 2.0を作るために行ったラボの進化がある。
我々はHYDRAのような他の製品でマルトトリオースの発酵不良を利用してきた。 それによってブルワーは、ホップクリープによる再発酵や高いドライホッピング率による渋み直面しても、ヘイジーIPAに比重を残すことができる。
※発酵が苦手な酵母はヘイジーのような甘みが許容されるスタイルに使えばいい、という意味。HYDRAという酵母は発酵度が低く(65-72%)ドライホップによるホップクリープ(比重が下がる:甘みが減る)によって全体のバランスが悪くなるのを防ぐことができる。
English酵母は麦汁の糖分組成に非常に反応することで有名である。私たちの酵母株では、麦汁中の糖分に応じて60-90%の発酵度を得られるものもある。English酵母株はマルトトリオースを残すことが多く、Kveikのように高い発酵度を得るにはマルトースが豊富な麦汁が適している。
酵母ラボの発酵度範囲
Escarpment Labs(およびほとんどのイーストメーカー)では、イースト製品に発酵度の範囲を明記している。一般的に、その範囲は平均的な麦汁で観察される平均減衰度からプラスマイナス5%である傾向がある。つまり、実験室での平均発酵度が75%である酵母株は、通常70-80%の範囲で販売されることになる。この酵母が70-80%の間でしか発酵しないという意味ではない。マッシングや酵母の健康状態によって、減衰度がこの範囲を下回ったり上回ったりすることがある。
ここ数年にわたり、標準化された発酵性の高い麦汁における酵母株の発酵度を記録してきた。これにより、酵母の典型的な発酵度範囲をよりよく理解できるようになった。さらに、ジョイ・ディヴィジョンの『Unknown Pleasures(未知の快楽)』のようにプロットすると、見た目もクールだ:
発酵度の予測と制御
さてビール酵母の発酵度をコントロールするいくつかのレバーについて説明した。ではどうすれば発酵度をコントロールし、予測しやすくなるのだろうか?
以下にそのヒントを紹介しよう:
1.強制発酵を行う
強制発酵テストは簡単で、非常に有用なデータを得ることができる。強制発酵を行うことで、麦汁中の酵母の発酵度を知ることができる。これにより、麦汁の到達可能な発酵度や最終比重を事前に知ることができるため、後の麦汁のトラブルシューティングが非常に容易になる。
※強制発酵テストに関する翻訳記事はこちら“HOW TO DO A FORCED FERMENTATION TEST” by Escarpment Labs
2.ベースモルトを切り替えるときや、新しい大麦が収穫されたときに気をつける
別のベースモルトに切り替える必要がある場合もある。また、毎年モルトサプライヤーは新しい生育期のモルトを段階的に投入する。この場合、この変化が酵母や発酵に与える影響を考慮する必要がある。麦芽が異なると酵素の含有量や活性が異なるため、麦汁の糖組成や発酵度に違いが生じる可能性がある。これは、厳格な表示誤差を遵守しなければならない小売ルート(オンタリオ州のLCBOなど)を通じてビールを流通させる場合には、特に注意しなければならない重要な点である。
3.パイロットバッチを行う
これは新しいイーストや新しいモルトを試すときに特に重要だ。パイロットバッチを行うことで、選んだ酵母、麦芽、レシピがどのように相互作用しているのかがよくわかるようになり、スケールアップしたりレシピを繰り返したりする際に、発酵度をより適切に調整することができる。
4.イーストとモルトのサプライヤーに助けを求める
どちらも麦汁製造や発酵の技術的な細部に精通している。また発酵度が予想外の値になったときや、新しい麦芽や酵母を試しているときは、サプライヤーがいつでも喜んで助けてくれることを知っておく必要がある。
酵母の発酵度について知りたい?イーストの種類は、どの製品ページでも見つけることができる。
その他のリソース
- The Braukaiser wiki has some excellent resources on starch conversion and attenuation.(交渉中)
- John Palmer’s How To Brew is (as always) a fantastic resource for basic brewing science.
All articles are translated here from Escarpment Labs are reproduced with permission.
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