ケトル・サワーリング: 概要Kettle Souring : An Overview

※は翻訳者による追記

ケトル・サワーリング: 概要

プロセスの入門書と最高のクイック・サワービールを作るための提案を紹介する
A primer on the process plus some of our recommendations for making your best, quick-soured beer.

ケトルサワーは、醸造業界が成熟するにつれて人気が出続けている。サワービールを素早く効率的に作るために使われるこのテクニックは、ホームブルワーだけでなくプロのブルワーにも広く普及している。この簡単なガイドではバクテリアを使ったサワービール造りの基本や、ケトル・サワービールを造る際に起こりうる懸念事項について理解を深めてもらうことを目的としている。

ケトルサワーとは何か?

ケトル・サワーリングとは、ブルワーがビールに素早く酸味を作り出すための技法で、一般的には、標準的なエール酵母株で発酵を終える前に、乳酸菌培養液(Lactobacillus cultures)を使って麦汁を酸っぱくする。特に”ケトル”サワーと呼ばれるのは、ホップをいれていない麦汁を短時間で沸騰させ、乳酸菌に安全な温度まで冷やし、乳酸菌を直接ケトルに投入できるからだ。乳酸菌は働きだし、麦汁を酸性化し始め、通常24時間以内に目標とするpH/titratable acidity(翻訳予定)に達する。

ケトルサワーリングの利点のひとつは、醸造所が汚染されるリスクなしにサワーリング培養液を導入できることだ。ケトルサワーリングは醸造所の “ホットサイド “だけで行われるプロセスであるため、麦汁を一度沸騰させれば設備は簡単に再滅菌できる。麦汁が理想的な酸味に達した後、ブルワーは再び麦汁を沸騰させる(または低温殺菌する)ので、サワーリングバクテリアは死滅する。その熱い麦汁を冷やして、他の”クリーンな”ビールと同じように発酵槽に移し、好みの酵母株を通常通り投入する。

伝統的なサワービールメーカーの多くは、乳酸菌やペディオコッカス菌(Pediococcus)による長時間の二次発酵を含む2段階の発酵プロセスを採用している。これらのバクテリアは複雑な酸味とドライな後味を持つビールを作るためにゆっくりと働き、完璧な最終的な風味を得るために他のバッチとブレンドされることもある。しかし、このプロセスには数ヶ月を要し、ブルワーが理想的なバランスを得るために、これらのビールやバクテリアのブレンドに何年もかけるケースもある。

しかし、ケトルサワーリングはブルワーに通常の生産スケジュールに合わせた酸味のあるビールを造る選択肢を与えてくれる。ブルワーは、長時間の二次発酵に生産量の大部分を割くことなく、果実の風味や酸味のレベルを何度も改良してサワービールを造る絶好の機会をもっている。

乳酸菌の概要

乳酸菌にはいくつかの一般的な種類があり、醸造でより一般的に使用されるものもある : L.plantarum、L.brevis、L.delbrueckiiである。いずれも糖分を消費し、乳酸を生成する。少量のCO2やエタノールを生成するものもあるが、主な生成物は乳酸で、これがビールの味を酸っぱくする。

ホモ発酵型 / Homofermentativeとヘテロ発酵型 / Heterofermentative

ホモ発酵性とは主に単一の最終生成物である乳酸を生み出す酵母株を指す。発酵経路は極めて単純である。

ヘテロ発酵性とはより複雑な発酵経路を持つ酵母株を指し、その結果、乳酸に加えてエタノール、CO2、酢酸など様々な最終生成物を生み出す。

何が違うのか?
主な違いはホモ発酵種は主に乳酸を生成するのに対し、ヘテロ発酵種は乳酸の他にアルコールとCO2(他の化合物も含む)を生成することだ。しかしアルコールとCO2の量はごくわずかで、ビールを完全に発酵させて仕上げるには十分ではない。

ほとんどの種類の乳酸菌は12-48時間で麦汁を酸っぱくする。特定の種が効率よく働くためには、乳酸菌は一般的にかなり暖かい温度を好むため、直接加熱するか断熱材を使うかでケトル温度を維持する必要がある。43℃-49℃(110-120°F)といった高温を好むブルワーもいるが、その温度ではうまく働かない種もある。例えば、L. plantarumは35℃(95°F)でピッチングし、より暖かい室温まで自由落下させることができ、その熱質量が麦汁を酸っぱくするのに十分な温度を24-48時間保ってくれる。

オススメ

きれいにケトルサワーしたビールを作るには、麦汁約360L(3bl)に対して約1Lの乳酸菌培養液のピッチレイトを推奨する。約19L(5gal)のスターターは6000L(50bbl)までの麦汁を素早く酸っぱくするのに適しており、バッチサイズが大きくなるにつれてスターターサイズは大きくなる。

サワーリングはボイルケトルで行われるため、通常の醸造セットで十分だ。始めに、ホップを添加をせず通常通りマッシュインして麦汁を準備する——ラクト菌の繁殖を抑制するには、ほんの数IBUで十分であることを覚えておく。麦汁を短時間沸騰させ、穀類に付いているかもしれない微生物を取り除いた”クリーン”な状態にしてから、乳酸菌を投入する前に麦汁を38℃(100°F )以下に冷やす。

ほとんどのブルワーは約24-48時間以内に希望のpHに達するが、酸味の最良の指標は味であることを忘れてはならない。酸味を感じたら、麦汁に含まれる未発酵の糖分と比較する。麦汁が十分に酸っぱく感じられたら、酸味付けのプロセスは終了だ。仕上げに、通常の煮沸スケジュールとホップの添加を続け、冷やして発酵槽に移し、好みの酵母株でビールを仕上げる。

汚染を防ぐ

ケトルサワーの製造には、サワーでない他のビールの醸造と同様の汚染リスクが伴うため、通常通り清潔さと衛生管理が鍵となる。しかし、ケトル・サワービールには注意すべき独自の懸念事項がある。

一部のブルワーは、麦汁が酸っぱくなる間、ケトルをCO2でパージし密閉することを誓っている。乳酸菌を健全に培養していればその必要はない。乳酸菌は通性嫌気性菌であり、嫌気性環境でなくても機能する。さらに酸素の存在は、L. brevisとL. plantarumはいくらか酢酸を生成する可能性があるが、ほとんどの乳酸菌株が主要なオフフレーバーを生成する原因にはならないはずである。

酪酸(butyric)やイソ吉草酸(isovaleric)の存在はいくつかのケトルサワー製造において指摘されているが、ブルワーがサワーに生の穀物を使用したり、乳酸菌を投入する前に麦汁を煮沸(または低温殺菌)しなかったりした場合、自家製ケトルサワーでも市販のケトルサワーでも、これらのフレーバーが現れることがある。これらのフレーバーは主に好気性細菌によって生成されるため、CO2を使用することで防ぐことができるが、バクテリアを投入する前に煮沸しクリーンな状態にすることに時間をかければその必要はないはずだ。

サワーリングバクテリアがpHを下げるのに時間がかかりすぎ、その間に微生物がオフフレーバーを生成し始めた場合にも、汚染の可能性がある。これは健康な乳酸菌培養液を使用し、それが増殖する温度でピッチングすることで避けることができる。

しかし、酵母はケトルサワーを造る際に最も懸念される汚染である。通常の醸造酵母は、数個の細胞が存在するだけで、知らず知らずのうちに手強い敵になってしまう。酵母はグルコース(glucose)を非常に効率よく消費できるように家畜化されており、その数個の細胞はすぐに増殖して乳酸菌と競合し、乳酸菌がする前ににグルコースを消費してビールを発酵させ始める。一般的に、サワーリングの進行中にクラウゼンの形成が見られたり、比重が0.5°P(またはSG / specific gravityが2ポイント)以上下がったりしたら、酵母が混入している可能性が高い。

要点

サワーリングビールを作るのは最初は難しいように思えるかもしれないが、長い発酵スケジュールにこだわることなく、ラインナップに新しいフレーバーを加えるには効率的でやりがいのある方法だ。ケトルサワーリングは、貯蔵室にサワーリング培養液を持ち込むリスクを避けることができるが、オフフレーバーや汚染を防ぐためには、清潔さと衛生管理を維持することが重要であることに変わりはない。

サワーリング培養液が異なる温度帯でどのように作用するかを記録し、pHのチェックや酸味のテイスティングを行う。ケトル・サワーリング・ビールはあらゆる種類の興味深いフレーバーの組み合わせを表現できる、真っ白なキャンバスだと考えてほしい。ケトル・サワーリングは、酸味のある爽やかなビールを造るための定番技法であり続けるだろう。


Kettle Souring: An Overview
Take advantage of fast-acting Lacto cultures to bring a little acid to the party.

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