White LabsとレーズンHow do we get yeast from raisins?

 White Labsから翻訳許可がおりた。返信がくるまで何通かメールを送る必要があったが、それはたぶん送り先を間違えていたからだと思う。ホームページを見ればわかるが、場所によったり目的によったり連絡先がいっぱいある。最初に送ったのはたぶんお客様サービスだった。これは意外だったが、White Labsが一番あっさりした回答だった。本当に「どうぞー」な感じだ。もしかしたら著作権に関する表明がどこかにあったのかもしれない。まあ、とにかく返事がきて良かった。まだ来てないところがいくつかあるが、そっちは気楽にいこう。

 White Labsを知らない人のために簡単に説明すると、日本のブルワリーでも結構使ってるところが多いイメージがあるほど、酵母サプライヤーの大手である。他の有名どこはLALLEMANDとかFermentisとかだろうか。White LabsはAll Things Fermentation Blogというカテゴリーでいろいろと記事を出していて、これが結構参考になる。酵母に関することはだいたいあるし、最近のではCIP(Clean In Placeの略、醸造所での掃除を意味する)に関する記事もあった。

 話は少し変わり、今日は本屋に行ってきた。Mikkellerの「ビールのほん」を読むためだ。ミッケラーは自分の醸造システムを持たないブランドで、ジプシーブルワリーやファントムブルワリー、コントラクトブルワリー、日本語では委託醸造と呼ばれる。いい加減1つの呼び方に統一してほしいと思っている。彼らは自分のブルワリーを持たないため、ビール造りは他のブルワリーで行う。

 ミッケラーの名前はミッケルとケラーという二人の創設者(現在ケラー氏は所属していない)からきている。始まりはやっぱりホームブルーインで最初は酷いもの(モルトエクストラクトが原因)だったらしい。そこで、当時飲んで美味しかったビール(確かIPA)を作っていたブルワリーにコンタクトをとり、作り方のコツを聞き、そのIPAのクローンを作ろうとした。7,8回クローンをつくり、仲間からの評価も上々になったところでビールの大会へ出場すると入賞。二人はこれが商品になると自信をつけ、コンタクトを取ったブルワリーに委託醸造をお願いする。これがミッケラーのはじまりだ。その後はなんやかんやで大きくなり、今では世界でも有数のブルワリーである。日本でも神奈川のヨロッコビール(Yorocco Beer)や盛岡のベラレン醸造所とコラボレーションを果たしている。

 なんでそんなミッケラーの本が読みたかったかといえば、委託醸造に興味があったからだ。日本ではHobo Brewingが有名だろう。代表である川村氏はプラプラした末に縁あって”はこだてビール”に就職し、その後ファントムブルワリーとして独立した方だ。現在は自分が共同創業者となるブルワリー”Streetlight Brewing”をやりつつ、ファントムとしても(厳密には違うかもしれないが)活動中のようだ。
 いろんなキーワードで調べてみたが、彼以外にファントムで成り立っているブルワリーは見つけられなかった。結構な割合でインスタのアカウントが死んでいたり、ホームページの更新が止まったりしている。彼の場合も自分のブルワリーを持ったことだし、日本では難しいスタイルなのだろうか。


 私が委託醸造に興味を持った理由としては、その身軽さだ。ブルワリーを作るにはお金と時間がとってもかかる。お金は最低1千万、時間は最低6ヶ月ほどだ。皆さんが知っているようなブルワリーであれば、その金額は2倍か3倍以上かかっているだろう。醸造免許取得も多くのブルワリーは1年ほどかかっている。さらに言えば、ビールを次の年もつくるには、発泡酒の場合、年間6キロリットル、ビールの場合は60キロリットル以上の量を毎年醸造する必要がある。作ったからには売らなくてはいけない。売るには売れるような商品を作らなければならない。結局、American IPAやHazy IPAなどのわかりやすくクラフトビール感のある商品が市場に多く出回る。もちろんそうではないところもある。最近だと”しまなみブルワリー”というところはラガーをメイン商品している珍しいスタイルのブルワリーだ。たぶん、その反動として”しまなみキャット”というキャッチーな商品(ハードセルツァー)があるのだろう。

 もちろん誰でも簡単に始められるわけではない。ファントムを始めるには委託先と保管場所と売り場が必要だ。
 大抵のファントムがそうであるように、最初は馴染のある小さなブルワリーからスタートするのが無難だろう。このブログもそのきっかけになればいいな、なんて思惑もあったりなかったりする。
 そして作ったビールはどこかの冷蔵庫に保管しなければならない。ファントムの実情はしらないが、作ってもらったブルワリーのプレハブ冷蔵庫をずっと占領するわけにもいかないだろう。自分の冷蔵庫に移動するか、次のお題に繋がるが、ブルワリーから売り場へ直で配送する必要がある。
 最後に作ったビールは売らなければならない。それは生活のためでもあるし、ビールの劣化を防ぐためでもある。SaisonやBarley Wineなどの一部のスタイル、Bottle Conditioning(または缶内二次発酵←これは調べ中で京都醸造やFar Yeast Brewingがやってる)などの一部のパッケージを除いて、作ったビールは早く飲んだほうがいい。特にたくさんのホップを使ったHazyなんかは劣化が早いと言われている。逆にハイアルコールやモルティなビールは熟成すると美味しくなるらしい。酒屋やビアバーがブルワリーを始めるパターンがあるように、売り場がすでにあるというのは大きいメリットだ。醸造免許を取る際には販売ルートを明確に書く必要があり、そのような自社内ルートがないブルワリーは事前に卸先を見つけ契約を取る必要がある。

 つまり、ブルワリーは立ち上げも維持も大変なのである。さらに言うなれば、経営的なモチベーションも保ちづらい。私がアルバイトさせて頂いているオーナーはよく”夢がない”と言う。ラーメン屋のほうが夢があるともよく言う。ブルワリーの基本的な利益はビールをどれだけ作ったかで決まる。どれだけ作れるかは発酵タンクの容量と数で決まる。つまり最初の設備投資だ。
 たとえば300Lの発酵タンクを4つでスタートさせたとしよう。エールが出来るまでだいたい一ヶ月。トランスや不測の事態を考慮して1つを予備、3つのタンクをフルで使った場合、1ヶ月で仕込めるビールは300×3で900L。さらに仕込んだ量(いわゆるバッチサイズ)と実際に商品になる量にはずれがある。移動や澱引き、ドライホップなどによりタンク内のビールが減るからだ。ここらへんは設備とやり方に大きく依存するが、仮にバッチサイズを100としたとき商品になる量を80とすると、一ヶ月で売れるビールの量は900×0.8=720L。1年で12×720=8640L=8.6klとなり最低醸造量はクリアする。
 この記事を参考に1Lあたりのコミコミ原価を300円とし、卸値を1000円とすると、とりあえずの粗利は700円/L。8640×700=6048000が年間の粗利。月々の固定費を家賃15万、雑費5万、水道光熱費5万、人件費20万とすると、年間固定費は45×12=540万。これらを年間粗利から引いいた6048000-5400000=64万8千円がとりあえず残るお金だ。
 実はここには運転資金や借金の返済が含まれていないし、給料は20万と低めに設定(つまり1人が食っていくのでやっと)している。さらにビールを作ってから売るまで、そしてお金が振り込まれるには時差があり、運転資金に余裕がないと途中で倒れる可能性が常にある。運転資金がないとビールの原料買えないないよね。それでは本末転倒。
 救いはある。自社ルートで販売すれば利益は増えるし、パーケージによっても(樽か缶か瓶か)変化するだろう。でも夢はないかもしれない。利益を増やすには、発酵タンクの数や容量を増やす必要があり、これにはまたお金がかかる。それに比べたらラーメン屋のほうがいいだろう。場所は小さくてすむし、設備もブルワリーに比べたら安価だ。しかもやっていることは似ている。モルトを煮るか、げんこつを煮るか。ラーメンスープの場合は発酵が必要ないし、セントラルキッチンなんて夢の方法も未来では待っている。チェーン展開や暖簾分けというシステムはあるし、店主一人でも十分やっていける。

 まあ、悲しい話はこれくらいにして、レーズンの話だ。ここまでくるのにだいぶ脱線してしまった。そうそう、私は本屋さんにいた。ミッケラーの本の立ち読みが終わり本棚に戻すと、その近くにこんな本があった。どうやらパンの世界にも自家製酵母があるらしいのだ。その本によるとレーズンを水につけとくと1週間くらいで発酵するらしい。それをドライイースト代わりにしてパン作りができるということだ。そして以前こんな記事を読んだのを思い出す。日本語オススメサイトにも載せているANTELOPEのブルワーの記事だ。記事内ではバスタから糖を取りだし、その糖をパン用のドライイーストで発酵させるという試みをしている。気になる方は最後まで読んでほしい(リンクはPart2なので注意)。

 ビールで自家製酵母といえばファームハウスエールやセゾン、そしてランビックという、その土地でしか作れない特殊なスタイルのイメージがあったが、ミッケラーの本にもあったように、別にヨーロッパじゃなくたって自家製酵母は採取できる。ついでにこの記事も思い出した。偉大なるレジェンド丹羽智氏のインタビューである。たしか”うちゅうビール”のYoutubeでは桃からとった野生酵母のシーンがあった気がする。見つけたのでどうぞ。まあ、そんなこんなで各地でワイルドイースト採取をやってるのは知っていたが、まさかレーズンから酵母が取れるとは知らなかった。それも結構簡単そうだ。難しい道具はいらない。瓶とレーズンがあればいいのだから。

 パンの自家製酵母コーナーには本が2冊しかなく、再びミッケラーの本があったビールコーナーに戻ると、こんな本があった。あのアドブルが本を出していたのだ。知らなかった。そしてこの本にもレーズンからの自然酵母採取についてかかれていた。
 以下、2冊の本からの情報をまとめてみる。一応これが今日の本題。
 バッチサイズを10Lとするので各自のサイズに変換してほしい。

必要なもの

方法

  1. まずは容器を殺菌消毒。熱湯でもいいが、ホームブルワーならサニタイザーを使えばいいだろう。洗剤を使った場合はよくすすぐ。漂白剤は塩素系よりも酸素系のほうが好ましい。
  2. 耐熱瓶に150gのレーズンと300mlの綺麗なぬるま湯(30度くらい)、15gの蜂蜜をいれる。
  3. 蓋をして10回ほど振る。液漏れ注意!!!
  4. 27度で数日保管。一日一回、上下に返し、蓋をわずかに開け空気を抜く。発酵は二酸化炭素を発生させるので完全に密閉すると爆発します。ご注意下さい。
  5. 3-7日ほどでレーズンが半分以上浮き上がる。蓋を開けた時に泡がたち、フルーティな発酵臭がしたらOK。さらに一日置き、澱を沈める
  6. 完成。あとは冷蔵庫で保管。一ヶ月ほどもつ。

 以上の分量でドライイースト6g分のレーズンスターターができあがる、らしい。私も試すのはこれからだ。すごくどきどきしている。もしかしたら分量の調整が必要かもしれないが、それは各自のスタイルやピッチレートに合わせてほしい。ここでは6g/10Lというエール仕様で計算している。野生酵母の場合は違うかもしれないし、本当はイーストカウンティングが必要だろう。しかし、まずはごちゃごちゃ考えるよりも試してみるほうが大事だ!!!

 注意点としては、レーズンの種類によってカビが生えるかもと書いてあった。小さなものはスプーンでとれば大丈夫とあったが、自己判断に任せる。温度に関してはは20度以下だと発酵が進まず、30度以上だとカビが生えやすくなるとあった。季節や家の構造に合わせてほしい。もちろん直射日光は絶対にダメ。

 容器に関して一応それっぽいリンクを貼っておいたが、なんでも良いと思う。ちょうどいい蓋がなければ、アルコールを吹いたアルミホイルをかぶせ周りを輪ゴムで止めたらいい。相手は自然酵母なのでうまくいくかどうかは分からないが、これで楽しみが増えた。試した方がいたらコメントで情報共有をお願いします。私もやったら記事にする予定だ。

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