※は翻訳者による追記
醸造を始めて最初に学んだことは、ブルワーはホップと酵母を意図的に選択しなければならないということだった。醸造中に麦芽の糖類をアルコールに発酵させることとは別に、ホップの化合物が生化学的プロセスで変化し、バイオトランスフォーメーションと呼ばれる方法でビールに根本的に新しい風味とアロマを加えるとき、醸造の真の技術が発揮される。
バイオトランスフォーメーションとは何か?そして何の騒ぎなのか?バイオトランスフォーメーション(Biotransformation)とは、酵母があまり好ましくないホップ化合物を、より好ましい大胆なフレーバーやアロマに変化させるプロセスのことである。基本的に、不活性なホップのフレーバーは酵母によって命を吹き込まれる。
ブルワーがバイオトランスフォーメーションに興味を持つのにはいくつかの理由がある。第一に、新しいフレーバーやアロマを加えるレシピを開発することで、クラフトビールに創造性を発揮する機会を与えてくれる。
また、バイオトランスフォーメーションにより、ブルワーはホップにかかる費用を節約することができる。酵母を適切に選択することで、ホップのフレーバー化合物の知覚が増幅され、醸造に必要なホップの量を減らすことができるからだ。
このブログでは、2つの重要なホップ化合物であるテルペノイド(terpenoids)とチオール(thiols)のバイオトランスフォーメーションに隠された魔法を解明する。
※より科学的なバイオトランスフォーメーションの仕組みに関する翻訳記事はこちら“Biotransformation: a legitimately exciting beer trend” by White Labs
楽しいホップ化合物
バイオトランスフォーメーションがどのように機能するかを理解するためには、まずホップの化学的性質に精通していなければならない。ホップにはエッセンシャルオイルが豊富に含まれている。実際、あらゆる植物の中で、ホップは最も複雑なエッセンシャルオイルを持つ植物である。ホップが何世紀にもわたって(何千年にもわたって)、ビールに好ましい風味とアロマを与え、苦味を加えるために醸造に使われてきたのも不思議ではない!ホップのエッセンシャルオイルには何百種類もの化合物が確認されているが、その組成と量はホップの品種によって異なる。
テルペノイド / TERPENOIDS
ホップオイルに含まれる最もポピュラーな化合物はテルペノイドである。テルペノイドには強い感覚的な性質がある。ホップに含まれる一般的なテルペノイドの例はゲラニオール(geraniol)であり、これはフローラルなアロマ化合物であるシトロネロール(citronellol)、ネロール(nerol)、リナロール(linalool)に変化する。α-フムレン(Alpha-humulene)もテルペノイド化合物で、ビールに黒胡椒の雰囲気を加えるカリオフィレン(caryophyllene)に変化する。
※Terpenoid
Geraniol→Citronellol, Nerol, Linalool:Floral
Alpha-humulene→caryophyllene:black pepper
先に述べたように、ホップオイルに含まれるテルペノイドの組成と量はホップの品種によって異なる。では次に、どのホップ品種にテルペンが豊富に含まれているのかという当然の疑問がある。科学者たちはホップの化学的性質についてまだ表面しか見ていないが、Cascadeにはかなりの量のゲラニオールが含まれていると報告されている。テルペノイドが豊富な他のホップには、Chinook、Mosaic、Centennial、Bravoなどがある。
話は変わるが、ニュージーランド産ホップを使った醸造に対する注目度は高まっており、最近では最も注目されている。ニュージーランド産ホップは、より複雑なフレーバー成分を持つホップ品種を生み出すために育種されたため、興味深いフレーバープロファイルを持っているからだ。グレープフルーツやレモンのような柑橘系でフローラルな雰囲気を与えるのでIPAに最適だ。ニュージーランドのOtago大学の科学者グループが今年(2021年)発表した研究によると、Rakau、Riwaka、Wai-iti、Waimeaなどニュージーランドで最も人気のあるホップにはテルペノイド化合物が豊富に含まれていることがわかった。
※Terpenoid Hops
Cascade, Chinook, Mosaic, Centennial, Bravo
Rakau, Riwaka, Wai-iti, Waimea:New Zealand
チオール / THIOLS
テルペノイドから話を進めると、ホップに含まれるもう一つの興味深い化合物群は、独特のフルーティーなフレーバーやアロマに変化するチオールやその他の硫黄化合物である。チオールはホップオイルの1%未満だが、それでもビールにトロピカルなフルーティーさを加えることができる。遊離チオールがホップに含まれることもあるが、大半のチオールはタンパク質型分子と結合しているため不活性であり、化合物のフレーバー認識は基本的に「ロック」されている。したがって、これらの結合したチオールを遊離(活性)チオールにバイオトランスフォーメーションすることは、ブルワーがホップ1グラムあたりのチオール化合物を最大レベルまで利用するための重要なプロセスであり、ホップにかける費用を節約することができる。
チオールは複雑な化学的名称の簡略版で呼ばれる。一般的なものとしては、ビールにカシスの香りを加える4MSPがあり、特にSimcoe、Summit、Cascadeなどのホップに含まれている。Hallertau Blanc、Tomahawk、ニュージーランドのホップ品種であるNelson Sauvinは、エキゾチックなフルーツ、ルバーブのような、グレープフルーツのような風味をもたらす3MHを豊富に含んでいる。
※Thiol Hops
Simcoe, Summit, Cascade:4MSP(カシス)
Hallertau Blanc, Tomahawk, Nelson Sauvin(NZ):3MH(ルバーブ, グレープフルーツ)
酵母細胞工場
バイオトランスフォーメーションの主役は酵母である。酵母細胞は、ホップ化合物の形をした原材料が、望ましい風味と香りの化合物に変換される工場だと考えてほしい。酵母細胞の工場では、酵素と呼ばれる小さな工場労働者が働いている。ホップ化合物の変換を行うのはこの酵素だ。例えば、ゲラニオールは酵母酵素NADPHデヒドロゲナーゼ(NADPH dehydrogenase)によってシトロネロールに変換される。シトロネロールには甘い柑橘系の香りがある。したがって、テルペノイドを豊富に含むRiwakaのようなホップは麦汁中にゲラニオールを放出し、酵母酵素によってバイオトランスフォーメーションされ、柑橘系のシトロネロールフレーバーを生成することができる。
ホップ化合物のバイオトランスフォーメーションを必要とするビールレシピを作る上で、酵母の選択は明らかに重要な考慮事項である。酵母株に見られる違いは、ホップ化合物の変換に必要な酵素の活性型を作ることができる酵母を作る、酵母株の遺伝学的性質に起因している。
Escarpment Labsの研究によると、野生フェノール酵母の中にはテルペノイド化合物を効果的にバイオトランスフォーメーションできるものがある。しかし、これらの野生酵母が示すフェノールの特徴は、バイオトランスフォーメーションされたホップ化合物の柑橘系のアロマをフェノールのオフフレーバーが覆い隠してしまうため、クリーンなIPAを造るには理想的ではない。本研究では、Cerberus、Vermont Ale、Hornindal Kveikのような非フェノール性酵母も同定したが、これらも同様にテルペノイドのバイオトランスフォーメーションが可能である。
※Terpenoid Yeast
Cerberus, Vermont Ale, Hornindal Kveik
チオールの場合、化合物の大部分は結合したままで不活性である。酵母がチオールをバイオトランスフォーメーションする際、システインβリアーゼ(cysteine beta-lyase)と呼ばれる酵素が、ホップオイルに含まれる不活性な結合型チオールを遊離させ、ビールにフルーティーな雰囲気を加える遊離型チオールを生成する。この種の変換を行う酵母に関する情報は限られている。しかしEscarpment Labsでは、ホップに含まれる結合型チオールを遊離させ、IPAの風味を強めることができるビール酵母を開発するための研究を積極的に行っている。一方、一部のワイン酵母はこのバイオトランスフォーメーションを行うことができ、ビール酵母の増殖を阻害しない限り、ビール酵母と混醸することができる。
バイオトランスフォーメーション用 Escarpment酵母
大学や研究機関との研究提携を通じて、当社酵母株のバイオトランスフォーメーション産物や酵素活性の一部を測定することができた!未発表の研究であるため具体的な数値はまだ公表できないが、当社のラインナップの中から、テルペンまたはチオールのバイオトランスフォーメーションに優れた酵母を以下にまとめた:
Product | Phenolic? | Terpenes | Thiols |
Foggy London Ale | No | Low | High |
Ebbegarden Kveik Blend | No | Low | High |
Cerberus | No | High | Medium |
Hornindal Kveik Blend | No | High | Medium |
Vermont Ale | No | High | Low |
Uberweizen | Yes | Very High | Medium |
Wild Thing | Yes | Very High | Medium |
Classic Wit | Yes | Medium | High |
Ardennes | Yes | Medium | High |
Ontario Farmhouse Ale | Yes | High | High |
※酵母とホップの組み合わせに関する翻訳記事はこちら“BIOTRANSFORMATION RESOURCES” by Escarpment Labs
ホップ・クロック
最後になるが、ホッピングのタイミングは、酵母によってバイオトランスフォーメーションされるホップ化合物の放出に大きな影響を与える。ホップを添加するタイミングによる風味の違いは、文字通り昼と夜のようだ。通常、麦汁に抽出されるテルペノイドの量を最大にするために、ホップはケトルボイルの後期かドライホッピングの初期に添加される。一方、ホップからチオールを抽出し、バイオトランスフォーメーションに利用できるようにするためには、ドライホッピングや発酵後期にホップを添加することが望ましい。
※Hopping
Terpenoid:Whiol pool, Early fermentation
Thiol:Dry hop, Late fermentation
詳しくはバイオトランスフォーメーション・ウェビナーをご覧いただきたい:
リソース
- Foods 2021, 10(2), 414; https://doi.org/10.3390/foods10020414(要約予定)
- FEMS Microbiology Reviews 2019, 43,193-222; https://doi.org/10.1093/femsre/fuy041(要約予定)
All articles are translated here from Escarpment Labs are reproduced with permission.
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