濁りの遺伝子を発見Uncovering a Gene for Haze

醸造用酵母のHZY1遺伝子は、ヘイジーIPAの濁りを作るのに重要な役割を果たしている。The HZY1 gene from brewing yeast plays an important role in making the haze in hazy IPAs

※は翻訳者による追記

濁りの遺伝子を発見

醸造用酵母のHZY1遺伝子は、ヘイジーIPAの濁りを作るのに重要な役割を果たしている。

2022年、クラフトブルワーは約2,400万バレルのビールを生産し、そのうちヘイジーIPAとダブルIPAは約10%を占めた(Nielsen調べ)。ほとんどのブルワーはヘイジーIPAに特定の酵母株を使っているため、消費者や業界アナリストの中にはヘイジー・ビールの味はどれも同じだと考える者もいる。濁りの原因に関する我々の研究は、酵母がビールの濁りの生成と安定性において重要な役割を果たしていることを示している。ブルワーが長年かけて解明してきたように、特徴的なオレンジジュースのような濁りを作り出すのが得意な酵母株もあれば、そうでない酵母株もある。私たちは、とらえどころのない濁りの遺伝子を探し求めることを使命とした。

HZY1の発見

私たちのチームがすでに行った多くの研究(翻訳予定)から、酵母がビールの濁りの発生に重要な役割を果たしていることはすでに確信していた。

古典的な酵母遺伝学的アプローチと最新のバイオインフォマティクスを組み合わせることで、ドライホップに依存する酵母由来の濁りの原因となる酵母遺伝子を同定することができた。我々は2つの酵母株を交配した : 我々の最も濁り陽性(haze-positive)な酵母株の1つであるOYL-011と、濁り中性(haze-neutral)なワイン株である。この交配から生まれた子孫の一部は濁り陽性であった。次にこの濁り陽性の子孫のひとつを取り出し、濁り中性ワイン株との交配を複数回続けた。その結果、濁り陽性ワイン株の遺伝子を99.2%受け継ぎ、濁り陽性OYL-011株の遺伝子をわずか0.8%しか受け継がなかった。全ゲノムシークエンシングを用いることで、我々は濁り中性ワイン株と濁り陽性戻し交配株のゲノムを比較し、最終的にこの “濁り遺伝子 “を突き止めることができた。

このアプローチを説明するために、青と赤の2つのデッキを思い浮かべてほしい。青いデッキには、暗闇で光る能力を与えるカードが1枚あり、それが濁り遺伝子を表している。デッキをシャッフルして2つに分けることで、1つのデッキだけがこの魔法のカードを持っていることになる。そのデッキを赤のデッキに戻してシャッフルする。デックを半分に分け、再び光ったデックを取り出し、新しい赤いデックにシャッフルする。デッキはどんどん赤いカードで構成されていくが、デッキが光る能力を与える特別なカード(つまり濁り遺伝子)を1枚だけ持っている。光っているデッキのほとんどが統計的に赤デック由来であることがわかったら、カード(つまり遺伝子)を調べ、残っている青いカードを個別に光る性質についてテストすることができる。

※少し分かりづらいので補足。
暗闇の中で光る能力のカード(濁り遺伝子)は青いデッキに入っていることは分かっているが、それがどの1枚かは分かっていない。その1枚を見つけるために、青いデッキのカード(濁り遺伝子の候補)の数を絞っていき、最後に1つづつ確認していく、という手順を示している。

この遺伝学的アプローチから、我々は新規遺伝子YIL169Cを同定し、ビールの濁りを促進する役割を持つことからHZY1と名付けた。HZY1の機能についてはほとんど何もわかっていない。実際、YIL169Cは、S. cerevisiaeの酵母株で、長さ995アミノ酸からなる分泌タンパク質である可能性があることが簡単に明らかにされただけであった。濁り陽性戻し交配株のHZY1遺伝子をさらに詳しく調べてみると、拡大した”リピート”(短い配列が何度も繰り返されること)が含まれているとわかった。これらのリピートの拡大は、遺伝子の2つの領域、1つはN末端のセリン(serine)に富んだ領域、もう1つはC末端のセリン(serine)/スレオニン(threonine)に富んだ領域に見られた。

Omega Yeast株コレクションのロングリード全ゲノムシークエンスデータからHZY1の塩基配列を調べたところ、N末端ドメインの拡大は濁り陽性株と強い相関があり、濁り中性株には拡大がないか、かなり短いことがわかった。次に、いくつかの濁り陽性酵母株でHZY1遺伝子をノックアウトしたところ、その酵母株は濁り陽性でなくなり、ドライホップ依存性濁りにおけるHZY1の役割が確認された。

※ロングリード・シークエンサー:1万塩基以上のDNA配列を一つづきに読むことができる装置。Oxford Nanopore TechnologiesやPacific Biosciences社の装置が使われる。
出典:日本医療研究開発機関

HZY1のテスト

HZY1がビールにどのような影響を与えるかをよりよく理解するために、我々はヘイジーIPAの標準レシピを用いて多くの実験を行った。収集したデータには、標準的な酵母株で醸造したサンプルと、HZY1遺伝子を欠失させた酵母株で醸造したサンプルのテトラッドテストが含まれる。

HZY1がビールにどのような影響を与えるかをよりよく理解するために、我々はヘイジーIPAの標準レシピを用いて多くの実験を行った。収集したデータには、標準的な酵母株で醸造したサンプルと、HZY1遺伝子を欠失させた酵母株で醸造したサンプルのテトラッドテスト(tetrad testing)が含まれる。

※テトラッドテスト
別名トライアングルテスト:同一のサンプルAを2つと1つの異なるサンプルBをパネリストに示し, 3つのうち異なったものをひとつ指摘させることによって識別の可能性を調べる。
出典:On the Proposed Triangle Test Used as a Preference Test

酵母遺伝学の命名法では、遺伝子欠失はhzy1Δと表記されるので、OYL-011(British Ale V)はこのように改変された場合、OYL-011 hzy1Δと表記される。

感覚的なパネリストは、霞んだビールを検出する際に視覚的な補助を取り除くため、蓋つきの不透明なカップでこれらのビールを評価した。

このテトラッドテストでは、パネリストは4種類のビール の中からペアを見つけるよう指示され、1フライトにつき2種類 のビールは濁り(濁り陽性親株で醸造)、残りの2種類は濁っていない (hzy1∆株で醸造)。これは視覚的な違いを発見することを目的とした感覚的なパネリストであったため、テイスターからサンプルが見えず、感覚的な違いにのみ集中できるように、サンプルは蓋つきの不透明なカップで提供された。

各標準酵母株サンプルのNTU値を、この実験のヘイジーIPAレシピで着くた場合のhzy1∆対応株と比較した。濁りの基本についてはこちら(翻訳予定)を参照。
感覚的なパネリストの結果。フライトの順番はパネリストごとにランダムとした。

その結果、パネリストはどのサンプルがかすんでいるのか、確実性や再現性をもって確認することができなかった。何人かのパネリストはペアを正しく選択したが、テイスターのコメントから、正解はラッキーな推測であった可能性があることが明らかになった。正解したテイスターは、”正直なところ推測 “とコメントし、別の正解したテイスターは、”似たようなビールを選ぶのは難しい “とコメントした。3つのパネリストを通して、コメントのテーマは主に、4つのサンプルすべてが驚くほど似ているということだった。

各フライトのペアの候補はAABB、ABBA、ABABで、パネリストがラッキーで当てる確率は約33%だった。

スプリットバッチの結果。基本のビールは全て大麦でドライホップは4lb/bbl。左がOYL-011 hzy1∆、右がOYL-011で発酵させたサンプル。

要点

他の遺伝的変異と同様に、HZY1が酵母株によって異なることは注目に値する。つまり、HZY1は酵母に依存する濁りにおいて極めて重要な役割を果たしており、ある酵母株が他よりも度合いの強い濁りを生成する理由は遺伝的変異によると考えられる。

この発見は、ブルワーがブランドのポートフォリオを充実させ、異なるエステルプロファイルと発酵度を生み出す酵母株を使用する機会を得るという、計り知れない可能性をもたらす。濁りとの遺伝的関連性を理解することで、この遺伝子を工学的に操作する可能性を探求し続けると共に、伝統的なWest Coast IPAとNEIPAで特別に使用される酵母株の境界線が曖昧になるだろう。

※一般的に、West Coast IPAはクリアな見た目、反対にNEIPAは濁っている。
テストの結果から、酵母由来の濁りと味は直接結びつかないことが分かった。ヘイジー使われている酵母はEnglish Aleなど甘みが残りやすい(発酵度が低い / 最終比重が高い)が多いと私は感じるが、濁り遺伝子HZY1の研究が進めば、濁ってるけど味はWest Coast IPA、クリアな見た目だけど味はHazyといったビールが出てくるかもしれない。

リッチでホッピーなビールは、予想外の速さでクラフトビールシーンを席巻し、消費者はそれがどこにも行かないことを明らかにした。ブルワーはビールを飲む人々を興奮させるような新しい風味を発見し、実験することが求められているのだ。

さらなる読み物


Uncovering a Gene for Haze
The Omega Yeast R&D team has made an incredible discovery about the origins of haze.

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