チオール入門編Thiols: An Introduction

ビールのフレーバー化合物の中でも、あまり理解されていないもののひついて、起源、説明、気になる理由を簡単に説明する。
A brief rundown of the origins, descriptors, and reasons to care about one of beer’s lesser-understood flavor compounds.

※は翻訳者による追記

チオール入門編

ビールのフレーバー化合物の中でも、あまり理解されていないもののひついて、起源、説明、気になる理由を簡単に説明する。

チオールとは何か?

揮発性チオール(volatile thiols)は、グレープフルーツ、パッションフルーツ、グアバを想起させる度合いの強いアロマ化合物であり、様々なトロピカルフルーツ、ワイン用ブドウ、ホップに含まれている。これらのチオール化合物は、高い芳香性と揮発性を持つ遊離体と、前駆体(結合型チオール / bound thiolsとも呼ばれる)の2つの形態で存在する。麦芽に多く含まれる前駆体は非芳香族性で、放出にはβ-リアーゼバイオトランスフォーメーション活性(β – lyase biotransformation activity)を持つ酵母が必要である。

ビール原料に含まれるチオール前駆体を探す場合、ホップの品種によって、チオール化合物の量だけでなく、不揮発性の前駆体の割合も大きく異なる。南半球産のホップは遊離チオールが最も多いようだが、まだ多くの研究と発見がなされていない。大麦もチオール前駆体の優れた供給源である。今日主に注目するチオール、3-スルファニル-1-ヘキサノール / 3‑sulfanyl-1-hexanol(3SH、3MHとも呼ばれる)は大麦に豊富に含まれているが、前駆体の形で閉じ込められているため、感覚的な閾値には達しない。

実質的に、遊離の揮発性である芳香族チオール化合物にバイオトランスフォーメーションできる酵母があれば、これらの結合した前駆体は潜在的アロマの備蓄である。

なぜチオールにこだわる必要があるのか?

ビールにおけるチオールの最も興味深くインパクトのある側面の1つは、その効力である。3SHという化合物の感覚的な閾値は60ng/L、つまり10億分の0.06(ppb)である。つまりビール中のわずかな量の揮発性3SHが、実に強いパンチを与えることができるのだ。ブルワーがバイオトランスフォーメーションによってチオールを遊離できる酵母を利用すると、出来上がったビール中のチオールの量は200倍になる。 その濃度を想像してみてほしい!

チオールはまた、原料のテロワールを受け入れる機会でもある。大麦は世界中で栽培されており、場所、気候、土壌の栄養構成など、変化するたびに、利用可能な前駆体も変わってくる。このようなテロワールへのアプローチにより、ブルワーは地元の生産者や製麦業者の可能性を発見し、それらの原料が最終製品に直接どのような影響を与えるかを学ぶことができる。

※テロワール(Terroir)とはフランス語で、「風土の、土地の個性の」という意味を成す言葉である。一般的にワインの世界で用いられ、「ブドウ畑を取り巻く自然環境要因」のことを指して使われるが、各地の特産食材などを語るときにも使われる。
出典:IDEAS FOR GOOD

チオールが真価を発揮するもう一つの方法は、強引なホッピングを必要とせずに、ビールに好ましいトロピカルな香りを加えることだ。高値で取引されるホップ品種の契約がますます競争的になっているため、ブルワーはチオールを利用して、複雑で果実味を前面に押し出したフレーバープロファイルを構築することができる。ホップの供給や地球を疲弊させるのではなく、酵母とバイオトランスフォーメーションの力を利用して望ましいアロマを生み出そう。

大麦にはチオールの前駆体が詰まっている。インディアナ州のSugar Creek Malt社の二条大麦のように、地元産の穀物を使用することで、地域のモルト・テロワールを発見することができる。

チオールの見分け方

多くのビール愛好家がエステルやフェノールを主体とするフレーバーを容易に識別できる一方で、チオールは歴史的に他の発酵フレーバーほど注目されてこなかった。

フレーバーを学ぶ最良の方法は、実際に体験することだ。——バナナを味わったことがなければ、古典的なヘーフェヴァイツェンをテイスティングするときの基準点がないだろう!チオールについても同じことが言える。グアバ、グレープフルーツ、パッションフルーツなど、典型的なチオールのアロマについて長々と語ることはできるが、これらのフレーバーを単独で、あるいは組み合わせて経験したことがなければ、ビールの中でそれを特定するのは難しい。

一般的なチオール感覚的な閾値

多官能性チオール感覚閾値(ng/L)
4MSP (4MMP)ツゲの木, カシス1.5
3SHA (3MHA)パッションフルーツ4
3S4MPolグレープフルーツ, ルバーブ40
3SH (3MH)グレープフルーツ, パッションフルーツ60
3S4MPAグレープフルーツ, ルバーブ120

チオールに関するトレーニングとして、チオールに似たフレーバー(そして実際のチオール)を豊富に含む他のもののテイスティングを組み立てることを提案する。実際のフルーツを手に入れられるのが理想的だが、ジュースやソーダは立派な代用品だ。私たちは最近、グアバジュース、パッションフルーツソーダ、グレープフルーツジュース、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン——パッションフルーツやカシスのようなアロマで珍重されている——でテイスティングを行った。

※ソーヴィニヨン・ブランは白ブドウ品種名。ここでは白ワインを指す。

チオールをテーマにしたテイスティング。左から右へ: チオライズド・ラガー、グレープフルーツ・ジュース、グアバ・ジュース、パッションフルーツ・ジュース、ピンク・グアバ・ジュース、ソーヴィニヨン・ブラン。

それぞれの味を単体で味わうことは、チオールに何を期待すればよいかを知るのに最適な方法だが、実際には、チオールを単離できるほど高濃度で単一のチオールを経験することはまずない。トレーニングの最後には、1つのグラスでジュースをブレンドし始めた。パッションフルーツソーダにグアバを少し混ぜたり、グアバにグレープフルーツジュースをたっぷり混ぜたりと、いろいろな味の組み合わせを試してみよう。アロマティック・チオールの含有量が多いビールには、他の競合するフレーバーがあるので、ニュートラルなラガーやブロンド・エールにジュースを少し混ぜて、そのビールに使われているモルトやホップとどのように溶け合うか試してみるのもいいだろう。

チオールについてはまだまだ続く。


Thiols: An Introduction
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